阿波研造

弓道家で「弓聖」といわれた、阿波研造を知っていますか?

明治13(1880)、宮城県河北町に生れる。仙台の日置流雪荷派で弓をはじめ、後に竹林派に師事し、30歳の時、仙台に弓道場を構え大射道教を創始した。大正の初期、大日本武徳会全国演武大会で弓道日本一の栄誉を得た。各流派の技術面での総合化を試み、近現代弓道の発展に大きく寄与。「天下の弓豪」「弓界の鬼」と畏怖され、晩年は「日本弓道の神」と讃えられた。昭和14(1939)没。

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若い頃は、矢の離れる瞬間に物凄い雄叫びを出していたが、晩年は、すっかり影を潜め、穏やかにして何処までも内面的な弓道家となった。

そんな阿波のもとに、ヨーロッパから東北大学に赴任してきた一人の哲学者がやってきた。彼の名をオイゲン・ヘルゲル。殺戮技術である弓道や空手や剣道を武道として尊ぶ日本精神の理解には、弓道を学ぶことが不可欠と思い、入門してきたのです。

阿波は言う。
弓から矢が離れる瞬間の、その人間の無心な態度が無くてはならない。」
的を当てようと思うな。」
力を抜こうと意識するな。意識した瞬間にとらわれる。」
このまるで禅問答のようなやり取りに、ヘルゲルは閉口してしまう。

<無我の境地になって、矢を放つ瞬間にこそ、禅の醍醐味のある>ことが、ヨーロッパ人のこの哲学者には、まだ分らなかったのです。

阿 波:「自分を離れて弓を射よ。
ヘリゲル:「ならば師よ。私が射ないのならば、誰が射るのですか?」
阿 波:「"それ"が射るのです。」
ヘリゲル:「では、"それ"とは誰ですか。何ですか?」
阿 波:「ひとたびこれがおわかりになった暁には、あなたはもはや私を必要としません。そしてもし私が、あなた自身の経験を省いて、これを探り出す助けをしようと思うならば、私はあらゆる教師の中で最悪のものとなり、教師仲間から追放されるに値するでしょう。ですから、もうその話はやめて稽古しましょう。」

こんな調子で、哲学者だけあって理屈っぽいヘリゲルとの問答が続いていきます。
 
その後も、黙々と俵束に向かって練習を続けるヘリゲルであったが、ついにある日、なにげなくヘリゲルが一射した瞬間、阿波研造は彼に向かって丁重にお辞儀をしてこう述べたのです。

「今しがた、"それ"が射ました。」

次の「的に向かって射る」段階に進んだヘリゲルであったが、矢が的に当たらない。
当たらないどころか、的に届かない時もあった。
その様を見た阿波研造はこう言った。

あなたの矢が的まで届かないのは、あなたの精神が的まで届いていないからです。弓道の奥義は、的のことを関知しません。」

的には当たらない、しかも師のことばは不可解極まりないといった状況で悩み続けたヘリゲルは、とうとう次のような質問を投げかけてしまった。

「先生は、何十年となく稽古を積まれたのですから・・・・(中略)・・・・ちょうど夢遊病者が正しい道を歩くような正確さで弓と矢の見当をつけられるのでしょう。」

この質問に対して、阿波はひとつの絶技をもってヘリゲルに答えたのです。

阿波は、ヘリゲルにその夜あらためて訪問するように言いい。
夜が来て、ヘリゲルは阿波の家に出向いた。

阿波は黙ってヘリゲルを道場につれていくが、当然ながら、道場は真っ暗である。そして1本の蚊取り線香に火を燈し的の前に置いた。

そして、道場に戻り、弓を引き、甲矢(はや)と乙矢(おとや)の2本の矢を立て続けに射った。

「ハッシ!」という音がして、2本とも的に当たったようである。

師範は、ヘリゲルに的を見に行くよう指示したが、彼はそこで恐るべき光景を見たのである。

なんと、1本目の矢は的の中心に当たり、2本目の矢は1本目の矢を真っ二つに引き割いて、的の中心に当たっていたのである。

「的に向かって目を閉じる、すると的の方から近かづくいて来る。しだいに的と一体になる。それは自分と仏が一体になることです。的は自己の不動心の中心にあるから狙う必要なく、矢を目の前の中心におくだけです。だからあなたも自己の心の神に気付き的と矢と一体になれば、的はあなたの心の中心にありますから狙う必要はありません。」

阿波は、「弓禅一如」のなんたるかを、この夜の絶技で教えたのです。

以上の話のなかには、願望実現にとても参考になる内容が、たくさん盛り込まれているとヤッズ★は思います。(特に下線箇所)
 
日本の弓術 日本の弓術
オイゲン ヘリゲル (1982/10)
岩波書店

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